中国企業家#4 「もう一つの希少金属問題」

中国企業家#4 「もう一つの希少金属問題」

中国語版タイトル「もう一つのRare Metal(希少金属)問題」

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中国は、世界有数の「インターネット成長国」である。

CNNIC(China Internet Network Information Center)の統計によると、昨年一年でも約7300万人
利用者が伸びている。この「伸び」だけで、フランスの全人口を優に超える。急速な携帯電話と
ブロードバンド回線の普及によってこの数はさらに増していくだろう。

一方、世界の実体経済では工業利用拡大等による希少金属「rare metal」の価格高騰が続いており、
このrare metalを持つ国に対しての政治的、経済的なPower Shiftも発生し始めている。

実は、インターネットの成長においても「rare metal」問題が存在し、中国をはじめとした新興国の
インターネット成長のボトルネックになる可能性が高まってきているのである。2010年~2015年の間に
一台の機器すらインターネットに「追加接続」出来ない日が来るかもしれないのである。

インターネットのrare metal問題は、実は、過去にも一度あった。

インターネットは、銅というrare metal上に仮設されることによって発展してきた。
電話回線、CATVなどである。インターネットの発展を支えるには、銅というrate metalには限界が
あった。情報伝達量と価格問題である。

発展途上国では、地下埋設された銅線を掘り起こして(違法に)転売する事も多発し、高価なrare
metalを利用することがインターネット普及のボトルネックとなっていたことも事実であった。
インターネット業界はこの問題にいち早く取組み、銅というrare metalから、世界中で最も潤沢な
鉱石資源である珪素(砂)を利用した光ファイバーへのShiftによって解決した。当時このrare metal
問題に対して世間の反応は薄く、インターネット・通信業界が主に自らのリスクでこの問題を
突破した。

その結果、例えば日本では2000年と比較して情報を1bit伝送するための価格は、
4300分の1に減少し、家庭でも100Mbpsの光ファイバーサービスを月300元程で
利用できるようになった。

そして今、インターネットはもっと大きな第二のrare metal問題に直面している。
そして前回と同様に世間はその必要性にあまり気づいていない。

その問題は「IP Address問題」だ。

インターネットは、PCや携帯電話、家電にいたるまですべての機器に「IP Address」と
いう「世界で唯一の番号」を割り当てることによって動作している。電話に割り振られる電話番号と
同じだ。

30年以上前に設計されたインターネットの仕組み上、この「IP Address」は、世界中で2の32乗個しか
存在していない。このアドレスが2010年~2015年に「枯渇」するのだ。

インターネットが使えなくなるわけではないが、新しい機器を追加することが出来なくなるのだ。
(会社の内線電話のように一つの番号(IP Address)を複数の機器でシェアして「延命」する方法など
はあるが、抜本的な解決方法ではない)

また、新興国にとって深刻なのは、この「IP Address」が原則として「早い者勝ち」だった点だ。
現時点の割り当て数では、米国は1人あたり5.4個、日本で1.8個、しかし中国ではなんと0.1個
しか所有していないのだ。

市場はこの「希少性」を織り込み始めており、固定的に割り当てられるIP Addressの価格は日本と
比較して上海では何と、約2倍~5倍以上となっている。需要は、毎年フランス一国分ずつ増えていく、
市場はさらにその需要を織り込んでいくのではないだろうか。

世界有数のインターネット成長国である中国は、インターネットにおけるrare metalの少資源国である。
この資源は「輸入」によって解決することは難しい。(技術的には可能である)

抜本的解決策としては、インターネットの次期バージョンである「IPv6」に移行するか、中国が世界の
インターネットを遮断して国内専用のインターネットを作るしかない。

前者には大きな投資と世界各国との「協調」が必要となり、後者はコストはほとんどかからないが、
インターネットという世界最大の知識システムから孤立してしまう。

現在のところ、中国政府と企業は前者に積極的に取り組んでいるようであり、歓迎すべきことだと思う。

日本はインターネット先進国として、この問題に古くから取り組んできている。

環境技術だけでなく、今回のrare metal問題に対しての技術を有している。中国のインターネットの
発展を止めないためにも、この分野においての中日両国の「戦略的互恵関係」に注目するだけでなく、
自らも積極的に貢献していきたいと思っている。