中国企業家 「雲の中」へ向かう世界
* 日本掲載の時に一部補足しています。
現在、世界のIT業界は「雲の中」に向かいつつあり、「雲の中」での
戦いが激しくなってきている。
「Cloud Computing」という言葉を聞いたことがあるだろうか??
このコラムでも書いたことがあるが(第三回:「インターネット文化 3つの法則」)、そもそもInternetとは
「全体を管理すること」をあきらめ、それぞれのネットワーク運営者に権限を委譲することによって、
人間の管理限界を超えた規模とスピードでの成長を成し遂げてきたネットワークだ。
「全体の管理をあきらめた」ネットワークの中に入ってしまうと、そのデータの経路や品質は
保証されないという意味で、ずっと以前から我々インターネットの専門家は、インターネット全体を
巨大な雲(cloud)として表現してきた。
Cloud Computingは「雲」(インターネット)の向こうからサービスを受け取り、サービス料金を支払う
コンセプトであり、身近な例として、SinaブリーフケースやGmail等が挙げられる。メールのデータの
保存容量や保存場所を意識せずに、インターネットにつながって
いればどこからでも安価にそのサービスを利用することができる。
巨大な「雲」のどこかにデータは保存されていて、世界中からそのデータにアクセスできるため、
個々のユーザーの設備容量に制限されず、ネットリソースの無限な処理能力を格安のコストで
利用できる。正に世界を変えてしまう技術の革新であろう。
IT業界では、「あるトレンドや現象」が一つのコンセンサスのあるキーワードで表現されたとき、そのキーワード
自体が一気に産業となることが多く、「intranet」「grid computing」「web2.0」「SaaS」等のキーワードが、
それぞれが一つの産業になったのと同じく、
「Cloud Computing」は、米国Google社のCEOであるEric Schmidt氏が定義してから、一気に注目の
キーワードとなり、今一番ホットな産業となったのである。
では、この「Cloud Computing」は、社会にとってどのような影響を与えるのだろうか? 少し別の視点から
考えてみたい。
日本の元財務大臣であった竹中平蔵氏の補佐官であった、慶応大学大学院教授岸博幸氏は「Cloud Computingは
国益に影響を与える」とまで語っている。(日経コミュニケーション「NTTの深謀」より)
個人のメール情報であれば、まだ許容できるかもしれないが、企業の情報、公的機関の情報が全て、
「雲の中」に他の情報と混じった状態で保存されてしまう。これらの情報が、組織や国の枠を物理的に
超えた場所で保存されてしまう危険性は否定できない。
しかし、今日のIT社会においては、bitは国の枠を超えて流通していく。もはや誰にもbitの流れを完全に
制限することはできない。
世界中自由に流通していくbitの世界では、ユーザーは国際競争力のあるサービスに流れるため、国益を
守るためには国内で適切な競争環境を形成し、最終的に「いいサービス」を生み出すことしかない。
中国の場合、13億人の市場で適切な競争環境が整備されれば、そこで磨かれた競争力は当然国際的競争力を
持ち、逆に外国のユーザーを国内のサービスに誘導することも可能となるだろう。内資、外資を問わず、
国内に競争力あるCloud Computing市場を生み出すことが
大切だと思われる。
しかし、現状は、残念ながら中国で「Cloud Computing」を行うためには、iDCライセンスなど複数のライセンスを
組み合わせる必要があるため、かなり参入障壁が高くなることが想定される。
一方、米国や日本では、誰でも簡単に「Cloud Computing」をビジネスとして開始できるため、大企業から
ベンチャー企業、内資から外資までが適切な競争を行って、競争力のあるサービスを国内に構築して
いくことが可能である。
そのような状況が継続すれば、どんなことが起こりうるか、日本の前例を見てみたい。
かつて日本は、検索エンジンにとって重要な「サイトを巡回してコピーをサーバーに保存する」という要素を
「著作権違反」として違法と判断した。その為に、日本から検索エンジンベンチャーが消滅し、さらには海外
から日本国内のサイトを巡回して検索の為にコピーされたデータがすべて国外に保存されるという現象を
発生させ、国内ユーザーはかえって海外の検索サービスを使い、国内のサーバーに情報を取りに
行かなくなってしまった。
日本政府はこの危険性に気づき「情報大航海」プロジェクトという、オールジャパンの検索エンジン
開発プロジェクトを発足させているが、今から追いつけるのかどうかは、極めて疑問視されている。
「Cloud Computing」によって生まれる雲の大きさと場所は、サービスの競争力によって刻一刻と変化する。
その雲の大きさと位置が国益に結びつくことをしっかり認識し、日本の失敗を繰り返さずに、世界中のbitを
国内に集める為の競争環境を国内で生み出すことは喫緊の課題であろう。
また、日本は、この失敗を繰り返さないよう、早急に手を打っていくことが重要である。
私自身この分野においては、大きく貢献していきたいと思っている。