中国企業家「本質に帰る事」
[中国企業家 2009年2月号掲載]
2008年は、百年に一度といわれる金融危機を迎え、日本経済においても日経平均株価が
過去最大の下げ幅を記録して終わった。日本は一年間で時価総額で約4割を失ったことになる。
その中で、FreeBitは過去最高売上・最高利益を達成(半期)し、そして株価も年間で28%
上昇して終わることが出来た。IT産業でありながらも、景気に左右されない事業構造で
あることを証明することが出来た。
この事業構造構築にあたっても、重要な「先人の言葉」があった。
「企業は、価値を創造するものである。」
2005年、僕のメンターである出井伸之氏(当時ソニー会長)から頂いた言葉である。
当時日本は、僕と同年代の起業家達が経営するベンチャー企業が、時価総額を
レバレッジさせて、所謂、優良「オールドエコノミー」企業を華々しく買収し、規模だけでなく
優良な事業内容を急拡大させていた。
FreeBitは当時、新しい技術開発に成功し、業績的には最悪の時期を脱し、
やっと黒字に転換し始めた段階であり、初めて経営者人生で「焦り」を感じた
時期でもあった。
FreeBitのビジネスモデルは、広告を収益の中心とした大多数のIT企業と一線を画するために
最初の立ち上がりには時間がかかる。参考のために少し説明する。
FreeBitは「先のインターネット世界」を見据え、インターネット普及のボトルネックを解消する
各技術を開発し特許を取得する。例えば、ダイヤルアップ接続では電話料だけで無料で
接続できる技術、ブロードバンド接続では、利便性をかえずに利用帯域を30%程削減する技術、
次世代インターネットでは、既存ネットワークに手を加えずに仮想的にIPv6を利用可能にする
技術などである。
そして、これらの特許技術で最終サービスを作るのではなく、最終サービスを作る部品(API)を開発し、
この部品を最終サービスを開発する企業にエンドユーザー数に応じて月額で(15元~300元/User)
貸し出すというBtoBtoCというモデルだ。
GoogleのAPIで様々なサービスが生み出されるのと同様に、ソニー、オムロン、松下電器など
家電メーカー、200社程のISPがこの部品を利用してサービスを提供している。
市場を選ばずに上場を急ぎ買収レースに参加するべきか、それともじっくりと技術と事業構造を
強化していくべきか。
その時にいただいたのが出井氏の先の言葉であった。
そして、「今のITベンチャーの企業買収は、自分から見ると単なる[価値の移動]のように見える。
FreeBit はITにおいて数少ない価値を創造する企業だと思っている。だから自分が応援している。
焦る必要はない」と言葉を続けられた。
目の前に青空が広がった瞬間だった。
その言葉を愚直に信じ、コツコツと特許技術を開発し、10元~300元程の継続課金を
積み上げることで、その後4年間で、売上を2億元から、7億元(今期予定)を超える規模に
まで成長させることが出来た。
安易に広告によるビジネスモデルを構築しなかったことが、地味であるが景気動向に
左右されにくい事業構造を生み出した。
現在はあらゆるものの変化が激しく、経営者が決断を下す論拠が乏しくなってきている。
こんなときこそ、本質に帰る事が必要だと思う。
「企業は、価値を創造するものである。」
フリービットも積極的な買収を行っているが、これは「価値の移動」ではなく、
フリービットの技術と組み合わせることで「あたらしい価値の創造」を
行うことが出来る場合に限定している。
2009年、年始の目標で「飛躍」という言葉を設定した。
企業家人生で初めてのアグレッシブな目標である。
中国ビジネスにおいても、市場調査の第一段階が終了し、いよいよ活動拠点を、
上海から北京に移す。日本人スタッフを中心とした準備フェーズを終え、いよいよ
優秀な中国人スタッフを中心とした本格的な事業立ち上げを行う。
FreeBitの中国名は「飛比特」。本質を見極めながら飛躍を狙いたい。