中国企業家#5「One World One Dream」
8月8日午後8時8分に北京オリンピックが「One World One Dream」を
スローガンとして開会した。
僕も、仕事を早めに切り上げて、東京渋谷の自宅で張芸謀監督演出の
開会式をデジタルハイビジョン放送で大いに堪能した。
北京オリンピックはインターネットにとっても大変興味深い大会となっている。
それは、北京オリンピックが、初めて「世界全ての国で正式に権利処理された
オリンピックコンテンツがインターネット上で見られるようになった大会」である
ということである。
International Olympic Committee(IOC)では、英断を下し、傘下のOlympic
Broadcasting Services(OBS)が作成した競技のハイライトやニュースなどを、
Internet放送のライセンスを取得していない77の地域向けに
YouTubeを利用しての直接配信を開始した。(中国や日本など、Internet放送
ライセンスを正式に取得した国からのアクセスはブロックされている)
まさにインターネットによって「One World One Dream」を実現したのである。
この配信にあたって、IOC Director of Television and Marketing Servicesの
Timo Lumme氏は
「IOCの優先度は、オリンピックの競技の魔法とアスリートの偉業を出来るだけ
多くの人々に体験してもらうことにある」と語っている。
IOCという組織の「価値基準」を明確に定義していることは興味深いし、大変
喜ばしいことであると思う。
しかしビジネス面で見ていくと、IOCにとって「放映権収入」は、オリンピック毎に
収入の大きな割合を占めるようになってきている。ロイターの記事によると、
1948年に英BBCが1000ギニー(1ギニー=21シリング/20シリング=1ポンド)
を支払って始まった放映権収入は、北京オリンピックでは、25億ドルになり、
総収入の55%にも達している。
さらに、次回のロンドンオリンピックでは、放映権収入が北京オリンピックに
比べて40%増加し、その中の15%がインターネット(携帯電話を含む)放映権が
占めると予想されている。
今後、このインターネットによる「One World One Dream」を継続していくためには、
ビジネス的、技術的にそれぞれ一つずつ大きなジレンマが存在する。
・インターネット放映権収入は今後の成長が最も見込まれる「金のなる木」である。
放映権を取得していない国に対しての無料インターネット放送が今後も続けられ
るのか?(ビジネス的)
・IOCは、インターネット放映権を「国ごと」にライセンスしている。
この「国」を判別し他の国からのアクセスを遮断する方法には、国ごとに割り当てられた
IPアドレスが利用されているのである。前コラム「もう一つの希少金属問題」で指摘した
とおり、このIPアドレスは2010年から枯渇が始まり、その枯渇は新興国から始まってくる。
国ごとのIPアドレスの「分割損」をなくすために、技術を駆使して在庫のIPアドレスが
細分化され、国を超えて流通する時期が来るだろう。
そうなったらIPアドレスで国を判別することは不可能となる。そもそもインターネットは
「国」に紐付けて運営される構造になっていないのである。(技術的)
人類の英知を結集して開催される世界最大の平和の祭典が、「価値基準」を見失わず
にこれらのジレンマを超え、「One World One Dream」を今後も実現させ続けていくことが
出来るよう、人類の持つ可能性を信じたい。