中国企業家 [競合とは誰か?]
IT、更にはCloud Computingの世界においては、企業はそれ以前の世界と比べて「競合は誰なのか?」ということを、「ITパワーの進化」を考慮した上で、常に認識しなければいけない。
先日、インターネットでの最新理論と最新サービスを利用した実験で、いきなり世界一位を獲得した体験談も含めてこのことをお話してみたい。
10年ほど前、米国Microsoft社が絶頂であった時期に、当時のCEOのBill Gates氏が
あるインタビューで「競合はどこか?」ということについて語っていた。
氏は、SunMicro systems や、Oracle、AOL等という競合企業名を一切あげずに
「まだ名前も知らない、今まさにガレージで起業している企業」
と答えた。まさに、その時代にGoogleがガレージで産声をあげており、
本質を捉えている言葉である。
人間も企業もリスクを取り、学び、新たに挑んだことで結果が出ると、その方法に固執してしまい、
延長線上の施策にはリスクを取っても後から生まれた違う系統の技術や方法には目を
向けなくなる傾向がある。
Microsoftは、ソフトウエアの世界を支配したが、LotusやNovellを競合とみなしているうちに
Netscape、Yahooなどが大きく成長し、Internetには出遅れた。
米国Yahooは、コンテンツの「百貨店」であるPortal Siteの世界を制したが、膨大な「自分のサイト
以外の世界」を検索する検索エンジンの重要性に気づかず、Googleが世界を制した。
そのGoogleもFacebook等のSocial Graphの攻撃を受けている。
このように、超大手プレイヤーの世界でも「競合」を見誤ると、一瞬にして立場を危うくされる。
一般企業の場合は、IT/クラウド時代になるとこの危険性はもっと高いだろう。
FreeBit社は「新しい発想で我々がインターネット放送を手がけたらどうなるか?」
という実験をしてみた。
仕事として行うと業務フローや権限などに引きずられて既存の考えから抜け出せないために、
主に20代で5人程で構成される「ボランティア」チームと知人の有名な声優さんに出演を依頼した。
すべて「新しい考え」「新しいサービス」だけに絞って実践してみた。
そして重要なのは、日本のインフラを支えるバックボーンや、技術力など
「フリービットのビジネス強みを一切使わない」ということである。
経過:
1.告知は放送の約24時間前に、声優さんの個人ミニブログのみで行う。
2.放送サービスは無料のPersonal BroadCast サービスを利用する。
3.機材は、1台のLenovoのPCと、2台のAigoのWebCamのみを利用する。
4.マーケティングにおいてのみ「独自の発想の工夫」をする。
これらを徹底しただけで、世界最大規模のpersonal broadcastingサービスである
Ustreamに於いて、なんと同時視聴 5,000名を2時間継続、同時間帯の同時視聴者数の
世界一位を獲得するという驚異的な結果となった。
一昔前だと、
・告知費用(世界規模だといくら掛かるのだろう)
・放送設備(少なくとも50万元以上)
・インターネット設備 (300Kbps x 5000= 1.5Gbps とサーバー)
が必要だったが、今回の「世界一獲得」の為のコストは、ボランティアスタッフの
ピザ代合計 1,000元だけである。
上場企業であるFreeBitが企業として本格的なインターネット放送参入を計画すると、
事業計画の立案、投資計画、技術開発、サポートの準備、、とスピードが早いと
言われている弊社においても相応の準備期間と、設備投資、そしてなにより、
「社命」で事業に携わる社員の給与、残業代、などの負担が必要になる。
しかしこの取り組みで「世界一位」を獲得することができただろうか?
自己実現のために優秀な頭脳を使い、クラウドの膨大なコンピューティングパワーに
支えられた、フリーミアムの無料サービスを駆使して新しいサービスを次々に生み出す
「個人の力」。
その力に企業は勝てないのではないだろうか?
彼らは残業代も求めず、自らの意志で学び、商品を開発し、ピザ代だけで「世界を取ってしまう」
のである。
まさに、競合は、ITパワーを駆使し、近所のファーストフード店の紙ナプキンに
何かを書きなぐっている若者達なのだということを、認識しなければいけないだろう。
PS.
今回は、「フリービットのビジネスの強み」を使わずにフリービットの若者たちは、
世界一を獲得した。これは、企業としての力のもう一面を示していると思う。
これは、採用力と教育力である。
フリービットの新卒採用は本当に高いハードルとなっており、様々な工夫が
こらされている。それらのハードルを突破してきた若いスタッフは、
2週間ほどの本業以外の時間を使って、世界一を取ることができる
潜在能力を持っている。
また、この経験を戦略人事部GMの酒井穣を中心に「教育」に展開しつつある。
ルールの違う強豪相手である「優秀な個人」と、共存/戦っていける土壌づくりを、
理念、採用力、教育力 という軸でも進め、企業の背骨に入れていく覚悟だ。