第138話 NHKアーカイブスの視察

第138話 NHKアーカイブスの視察

ishida日本人の財産である貴重なライブラリの前で,緊張の面持ちの石田氏
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埼玉県川口市にあるNHKのライブラリーの保管施設兼ライブラリー公開施設である「NHKアーカイブス」を視察してきた。

視察の目的は,

・日本最高クラスの動画ライブラリーの保管/配信システムの把握

トップのコンテンツの管理/保管/配信状況を把握することで,これからインターネットの主要コンテンツといわれている動画配信に必要とされるインフラや運営基準などを把握

・コンテンツの管理方法の把握

コンテンツは,「データ」(動画コンテンツ自体)と,そのデータを説明する「メタデータ」から成るが,これらがどのように作成され,管理されているのか?

そしてそれらをIT的な視点から解釈して,本連載でIT関連の皆さんにお伝えする事に設定した。

MITダートウゾス教授によると,これからのインターネットの世界では,全ての動画,画像などのデータにはそのデータが何なのか?を説明する「メタデータ」が付加され,検索などが容易になる必要がある。 これらを「セマンティックWeb」と呼び「意味のあるWebの世界」の必要性を説かれている。

長年の取り組みから,コンテンツ作成,管理,再利用,配信においても日本で最もノウハウを持っている団体の一つであるNHKがそれらにどのような取り組みをしているのかを把握することで,インターネットコンテンツがこれから迎える課題やその課題を越える為の方法を確認したかった。

NHKアーカイブスは合計8階建ての建物で,一部公開エリアは埼玉県との共同運営となっていた。公開エリア(1フロアー),保管エリア(2フロアー),伝送・コピーエリア(1フロアー),メタタグ作成・蓄積エリア(1フロアー),映像修復エリア(1フロアー),システム管理エリア(1フロアー),事務室等という構成になっている。公開エリアを除いては一般の人は入れないようセキュリティが施されている。

合計およそ180万本ある映像ソフトのうち,現時点で59万本がこの施設に集められており,ニュースなどですぐに使う素材12万本が渋谷の放送センターに残されているとの事だ。

NHKの計画では,これからはNHKアーカイブス(川口)に集中してNHKの映像資産が蓄積されていく計画で,NHKアーカイブスをHUBとしてブロードバンド回線で各放送局に映像がオンデマンドで転送されるような計画となっている。現時点では,渋谷放送局との間に4Gbpsの回線が敷設されており,順次全国展開されるとの事である。

全体のシステムなどに関しては,いくつか紹介されている記事もインターネット上に存在しているのでここでは詳しく解説しないが,我々ITサービスのバックエンドを提供するプロの目から見て非常に感心したのは,管理,トランスポート双方において物理的なバックアップ経路が準備されている事であった。

当然バックアップ回線,システムは存在しているが,それらすら落ちてしまった場合でも,人手でラックからテープを探し出し,1日1便確保されているトラックによる伝送によって最低限のトランスポートが確保できるようになっている。こちらも,渋谷に一度転送されてから,全国に配送されるということである。

現在の回線容量の4Gbpsを越える量のオーダーがあった場合などには,トラックに大量のテープを積んで運んだほうが転送量が早いということも発生するだろう。この辺は,以前研究室でも言われていた,「スニーカーネット」と同じような感覚を感じた。

通常稼動時は,検索された映像データは,自動的にラックのどこにあるかが探され,その該当ラックにランプがついて場所を知らせる。 オペレーターがそこからテープを取り出して転送機に入れると4Gbpsの回線にて渋谷のセンターへ送られるシステムになっている。

※スニーカーネット 低速のネットワークでファイルを転送するよりも,MO等の大容量ドライブにデータを入れて走ったほうが速かったためにこのように言われていた。あるところでは,犬を仕込んで,高速で研究室間を走らせ高速通信を実現していたとの事。。。

今回の視察で一番印象に残ったのは,実際にNHKアーカイブスを企画され,稼動までに携わってこられた方々へのインタビュー部分だった。印象的な言葉を抜粋したい。

・メタデータには,「検索のための情報」と「再利用の為の権利情報」が付加してある。再利用や配信条件を考えると,この権利情報がとても大切だ。

・アーカイブという視点からみると,映像データ(動画コンテンツ)とメタデータの重要さは50:50である。再利用できないのであれば,アーカイブとしての価値は無い。

→これは衝撃であった。当然動画コンテンツ自体に多くの価値が存在していると思われたが,「アーカイブは再利用できなければNHK職員が眺めることくらいしか利用価値は無い」と一 刀両断であった。再放送や再利用に関しては,その都度登場した方への確認が必要との事 で,数十年前にインタビューした方へ本当に許諾依頼を行っているとの事である。

・メタデータは制作時に制作者が作成するのが効率的には一番だが,制作者がメタデータを付加してしまうとメタデータとしての客観性が欠ける問題も発生してしまう。

・他の放送局から,ビデオライブラリーを運ぼうとした際に保険を検討したが,ビデオテープの値段でしか算定されなかった。

 →NHKのマスターテープという非常に「客観的相対的価値」を持つと思われる情報においても,その価値を算定することは困難なようだ。

今からインターネットの業界は動画コンテンツにどのように取り組むかが大きく議論されている。コンテンツ制作に当たって,これらの先人の教えは計り知れない価値になると思われた。一度使うだけではなく,再利用するためには動画コンテンツ自体と同じくらい,メタデータを完備しながらコンテンツ作成をしていく必要があるという事は最初から認識しておくべきだと感じた。

自分自身,インターネット業界の人間として,セマンティックWebに取り組むにあたって大きな財産を得た気がする。

今までも,メタデータ(メタタグ)の重要さは多くの所で説いてきていたが,更に新しい道筋を俯瞰することができた。

PS.
お忙しい中2時間あまりの取材にお付き合いいただき,オープンに様々な教えをいただいたNHK職員の方々には本当に深く感謝しております。

ダイアリー

3月26日(水)
9:00某社来社。事業内容などについての確認。いよいよ「覚悟」の時だ。その後,法人営業グループマネージャー橋村とクオリティ体制に関しての話し合い。11:00某社との協業についての打ち合わせ。ゴールの設定を明確に行う。少し時間が空いたので大泉さんから腕時計についてのレクチャーを受ける。14:00からIE本部ミーティング。各ワーキンググループからの成果報告を受ける。なかなかきちんと進んでいるようで一安心。夜食事をしていたら,気持ちが悪くなる。風邪かな。。。体調を整える為に早く帰って休む。ちょっと熱が上がる。

3月27日(木)
朝になっても熱と吐き気が取れないので,急いで病院へ。抗生物質をもらって帰る。予定を全てキャンセルして寝込む。夕方に何とか復活。今晩の為に,以前よりまとめていたメモを再確認。19:30よりソニー出井会長とお食事。いくつか確認事項を話した後は,将来のITのカタチや,ソニーの歴史などについてのお話をする。ワクワクする話で大変盛り上がる。家に帰って,早速メモにまとめておく。何とか体調がもってよかった。。。

3月28日(金)
まだ体調は完璧ではないが,何とか復活。昨日のメモを出井会長に送る。出社後は,社内情報システムについての打ち合わせ,それからオペレーションチームに関しての打ち合わせ。その後,協業に関しての海外戦略に関するミーティング。それから,SONYとIPv6案件の打ち合わせ一件。予定が早く切り上げられたので,早めに帰ってグッドラックのビデオを見る。。。

3月29日(土)〜30(日)
ひたすら読書を行う。「デザイン」ということに関して週末を深めて,自分の考えをまとめてみる。

3月31日(月)
出社前に,母親に電話。誕生日おめでとう! 9:30から全スタッフを対象に某案件の講習会。その後,スタッフミーティングを開いて,4月1日付組織の説明を行う。CS本部内に,新たに2つの営業グループを設置する。このことによりFBはビルディングブロックを異なるバリューネットワークに対して提供していく具体的な準備を整えることになる。13:00から2つほどメモをまとめる。18:00より某社との協業のキックオフミーティング。その後,そのまま食事会。いいパートナーシップが組めそうでワクワクしてくる。ゴールとノンゴールを明確に設定して,極めて具体的に動きたいと思っている。某社の社長は,なんと隣の小学校出身だということが分かりびっくり。

4月1日(火)
第二回入社式。詳細は,先週の日記より。入社式後,オフィスではいたるところから自己紹介の声が響く。一日で11人も増えたこともあって非常に活気が出てくる。14:00過ぎからSONYと某案件に関してのミーティング。その後,オフィスでスタッフと積極的にコミュニケーションをとる。18:00よりFeel6を開発,運用したことで見えてきた新たな技術的チャレンジについてのキックオフミーティング。面白い。19:00から臨時取締役会。いよいよだ。その後,QAに関しての打ち合わせ。夜は,CEO室メンバー数人とイタリアンで食事。